すぐそこの遠い場所②

前回(すぐそこの遠い場所①)の続きです。

私がこのように考えるに至った経緯には、仏教の心の定義以外に、慶応義塾大学・前野隆司教授の受動意識仮説というものも参考にしているので、ご興味のある方は調べてみてください。

簡単に説明すると、顕在意識は潜在意識に対して受動的に存在していて、脳が認知し記憶するべきものを選り分けるためのシステムにすぎないといったような内容です。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校ベンジャミン・リベット氏の実験(1983年)で、指を動かそうとしたときに、意識はどのように働くのかというのを調べたものがあります。
被験者に自分のタイミングで指を動かしてくださいと伝えておき、

①「動かそう」と意図する瞬間
②筋肉への指令が発せられる瞬間(脳の運動野を観測)
③実際に動いた瞬間

それぞれのタイミングを計測しました。
私たちの意識の世界では(厳密には顕在意識の世界では)、①の「動かそう」と意図する瞬間が一番先にあり、その後に②の筋肉への指令が発せられ、③の実際に動くという流れを思い描くと思います。
というか、私たちの脳はそのように認識するように働きます。
ところがこの実験で、①は②より0.35秒後に起こっていることがわかったのです。
顕在意識において自分が「意図」するより先に、指を動かす指令が出ていたということです。

これはつまり、

潜在意識で本能的に選択したり判断したりしていることを、
顕在意識において、自分自身が納得・理解できるように理由づけしている

ということも言えるのではないかと考えます。

また、分離脳研究というものがあります。
アメリカの神経心理学者のロジャー・ウォルコット・スペリーという人物が、ノーベル賞を受賞した研究分野で、内容としては、薬での治療が困難なてんかん患者に対して「脳梁離断術」という外科的処置を行うことで、治療を試みた後、片方の脳半球に依存することが知られている作業を行ってもらい、二つの脳半球がそれぞれ独立した意識を持っていることを実証したものです。

重度のてんかんでは、脳の局所で発生した異常な電気信号が脳全体に伝わってしまうことで、強い痙攣や意識障害が現れますので、それを治療するためには、電気信号が拡がらないように右脳と左脳の間にある脳梁を外科的に切断してしまえばよいと考えられました。
※現在では認められていない手術です

彼の研究室で様々な検証が行われたわけですが、当時大学院生として研究室に所属していたマイケル・ガザニガは、現在分離脳研究の第一人者となっており、彼は分離脳患者も含めた人々が自己や精神生活の統一感を持てる理由を説明するために、「解釈者理論(interpreter theory)」という理論を編み出しました。

これは、分離脳患者の脳の右半球にのみ提示し、右半球によってのみ遂行される動作を、言葉(こちらは脳の左半球を使う)で説明してもらう課題から編み出されたものです。

それはこんな内容です。

Gazzaniga(ガザニガ)のお気に入りにこんな事例がある。
患者の右半球に「微笑む」という単語を提示し、左半球に「顔」という言葉を提示して、患者に見たものを描いてもらった。
すると、「彼の右手は、微笑んでいる顔を描きました。『なぜそれを描いたんですか』と尋ねると、彼はこう答えたんです。『あなたが描いて欲しかったのは悲しい顔なんですか。悲しい顔を描いて欲しい人などいませんよ』とね」。
左脳の「解釈者」は、実際に起こったことの説明を考え出したり、次々と入ってくる情報を選別したり、外界を理解する助けになる物語を組み立てたりするために、誰もが利用しているものだ、とGazzanigaは言う。
※出典:Natureダイジェスト

つまりこれは、脳が顕在意識内で常に当たり前に行っていることの一つに、情報を自分が理解し、記憶しやすいように整理し、場合によっては辻褄合わせをすることがあるということがわかります。

先の指を曲げる実験結果で、実際は意図するより先に脳から曲げろという筋肉への指令が出ていても、自分が意図したと認識できている理由の一つと言えるように思います。

そろそろまた長くなってきましたね。。
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